ハッカ飴でつなぐ心

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 クロちゃんが移動して、数日が経ちました。

空っぽになった馬房の前を通ると、あの日の彼女の姿が目に浮かんできます。

あいにくの小雨の朝。

出発前、車庫から出された馬運車の助手席に、私は、ハッカ飴の袋を置きました。

前日の夕方、車を走らせて買ってきたものです。

クロちゃんがアメリカを去る時に、牧場の人からもらったミントキャンディ。

彼女が大好物であることと、遠い牧場の人たちの深い愛情が伝わってきました。

うちを去るクロちゃんに出来ることは、その思いをつなぐこと・・・。

「そうだ。ミントキャンディを用意しないと!」

セリの翌日、先方から「明日移動してほしい」との連絡が入り、時間の余裕がありませんでした。

午前9時には出発するというので、当日買うわけにはいかず、前日の夕方、近くのコンビニまで車を走らせます。

「ない!」

往復10分のつもりで鍋をかけっぱなしにしてきたので気になりつつも、どうしても用意しなければ気が済まない私の性格が、車をそこからさらに10分先のスーパーに向かわせます。

「あった!」

お菓子売り場の飴のコーナーに、「ハッカ飴」の文字を見つけ、急いで手に取りました。

案の定、家に戻ると、焦げ臭いにおい。

底の焦げた筑前煮と、こすってもとれない真っ黒な鍋が出来上がりましたが、私には、ハッカ飴を用意できた満足感の方が勝っていました。

そんなこんなの飴の袋を馬運車に載せた後、クロちゃんのところへ。

彼女は、離れの厩舎の馬房にひとりでいました。

10・飴・馬房の窓
 

秋の馬の移動は、流産を引き起こす感染症にかかるリスクが高いため、他馬との接触を極力避ける必要があります。

小雨が降っているとはいえ、周りの馬たちが皆、放牧に出ているので、寂しそうなクロ。

扉を開けると外を見つめ、ブヒヒヒヒーンと、何度も鳴いていました。

10・飴・のぞく
 

「ごめんね。もう出発だから、外に出られないんだよ・・・」

前掻きをするクロの気を紛らわすため、ポケットに残っていたミントキャンディをすべて食べさせます。

この8年の間に、彼女とはいろんな思い出が出来ました。

難産の末、生きて迎えることが出来なかった命に対して悔やみ、馬の出産に関して猛勉強したこともありました。

いつも気品に満ちあふれ、決して人間に迎合することのない馬でしたが、

その何とも言えない雰囲気が、誰をも引き付けていたような気がします。

馬房は汚さず、ボロは一ヵ所にまとめる行儀の良さ。

彼女のような馬は、滅多にいません。

私は最後に顔を拭き、彼女がつけていた皮もくしのネームプレート部分をピカピカに磨きました。

”Perfect World” それが、クロちゃんの本当の名前です。

しばらくすると、リーダーやスタッフがやって来ました。

手入れの後、

10・飴・手入れ
 

馬運車へ。

10・飴・後ろ姿
 

寂しい後ろ姿でした。

10・飴・馬運車へ
 

雨の音に消されたためか、それとも本当に鳴かなかったのか、クロちゃんが消えた馬運車から、声が聞こえてくることはありませんでした。

10・飴・遠ざかる馬運車
 

代わりに、川の中から、たくさんのシロザケが放つ水しぶきの音が、聞こえてきます。

10・飴・サケ
 

私は、そのまま放牧地へ歩き、クロちゃんが残してくれた娘のところへ。

10・飴・娘
 

これからは、娘の産駒をしっかり育てることで、クロの生活を陰ながら支えていこうと思っています。

昼前、クロを無事に送り届けたリーダーから、こんな話を聞きました。

移動先で、ハッカ飴の話をすると、早速スタッフの方が放牧地でやってみたらしく、「食べないですよ・・・」とのこと。

「いや、絶対食べますから。今日は放牧してなかったから、草を食べたい方が強いんでしょう・・・」

あれから数日が経ち、クロちゃんがあのハッカ飴を食べてくれたかどうかが、少し気になります。

でも、8年前に、海を越えてやって来たミントキャンディを食べてくれたように、きっと新しい場所でも、その味を口にしてくれていることでしょう。

いつか会いに行く時には、あの時のメイドインアメリカの赤と白の縞々のミントキャンディを手に入れて、持って行ってあげよう・・・。

そう思いました。

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コメント
この記事へのコメント
なんだか寂しいですね。こんなに愛してくれている人の所を離れなければならないなんて。本当に残念です
クロちゃんは絶対すごく良い子を産むと思います。行った先の牧場でも可愛がってもらって、幸せに暮らせるといいですね。
2013/10/29(火) 18:41 | URL | マロン #-[ 編集]
yosshieさんこんにちは。
クロちゃんとうとう行ってしまったんですね。私はクロちゃんともyosshieさんともお目にかかったことはありません。でも、お二人の8年間がしっかりと目に浮かびます。どんなに大切な8年間だったか。
つらい現実を綴られるのはきっと気の重いことでしょう。
でも、私のように現場を知らない人間には、その想いをおしえていただくことはとてもありがたいことです。
まだクロちゃんに未来はあるのだから希望は捨てません。
どうか幸せな日々を過ごせますように!
2013/10/29(火) 18:56 | URL | ごんすけ #-[ 編集]
私が一番会いたかった馬でした!!!
来年こそはと思っていました!!!
馬好きを認めさせてくれたのもクロちゃんでした!!!

クロちゃん!!!!!
楽しい日々が待っていることを望みます!!!!!
2013/10/29(火) 19:58 | URL | ひじり #-[ 編集]
写真でみるクロちゃんの顔、ほんとに寂しげですね。セリの時の表情も悲しそうに見えたのは気のせいでしょうか。きっと彼女はもう何かを察してたのかもしれませんね。
嫌だとか、やめてとか、言葉を話すことができない動物は、淡々と現実を受け入れるだけなのかと、あまりにも静かなその姿に胸が痛くなります。
以前見学に行った牧場で、牝馬は毎年、子を産み続けるというお話をうかがった時、私は「かわいそうに」とつぶやいてしまいました。案内をしてくださった方の「いや、そういうもんなんです!」という言葉に冷たさを感じたことを鮮明に覚えてるのですが、そういう割り切るような気持ちを持ってないと、心が折れてしまうんだなと、ようやくわかりました。悲しくても、つらくても次の牧場へバトンを渡し、どうか頑張ってと願うしかないのですね。
ミントキャンディが大好きなクロちゃん、飴が好きな馬がいるなんて私は知りませんでした。
環境が変わったことがきっかけとなり、新しい場所で素晴らしい子を産んでくれることを祈るばかりです。いつの日か、クロちゃんが幸せそうだという報告が読めることを楽しみにしたいと思います。
2013/10/29(火) 21:19 | URL | まりい #-[ 編集]
力強いお言葉、ありがとうございます。
血は繋がるといいます。大事に守っていけば、いつか大輪の花を・・・。
そんな気持ちで頑張っていきます。v-22
2013/10/30(水) 12:54 | URL | team yosshie #uvrEXygI[ 編集]
ありがとうございます。
お会いしたことのない方々に、たくさんの元気をいただいています。
いつまでも、しおしおとしてはいられません。
クロちゃんをはじめ、たくさんの馬たちと過ごした日々に、無駄な日などありませんでした。
共に暮らし、学んだことを、生かしていきたいと思っています。
頭の隅には、いつもクロの顔があり、いつか笑顔で会える日が来るといいなと思います。v-22
2013/10/30(水) 13:05 | URL | team yosshie #uvrEXygI[ 編集]
ありがとうございます。
ひじりさんの強い気持ちが伝わってきました。
実際に会って、彼女の不思議なオーラを感じていただきたかったですね。
人懐こい馬ではありませんでしたが、すべてを悟りきった澄んだ瞳に、何かを感じていただけたのではないかと思います。これからの産駒の活躍に期待します。v-22
2013/10/30(水) 13:11 | URL | team yosshie #uvrEXygI[ 編集]
ありがとうございます。
毎日、放牧地で草を食べていた馬が、突然、セリ会場に連れていかれたのですから、それはどういう意味なのか、きっと察していたことでしょう。
人間の都合で運命を変えられるサラブレッドのことを思うと、きりがありません。
それは、競馬を開催しているどこの国でも、同じことがいえるのでしょう。
売れ残った馬から、夢のようなシンデレラストーリーが生まれることもあります。
そんな予想できない展開が待っているから、人は馬を追い求めるのでしょう。
生きている限り、可能性はあります。彼女が繋いでくれた絆を大切にしていきたいと思います。
クロちゃんのお腹の仔は、ディープブリランテの仔で、ブリランテには「輝く・きらめく」などの意味があります。良い仔を産んでほしいですね・・・。v-22
2013/10/30(水) 13:36 | URL | team yosshie #uvrEXygI[ 編集]
クロちゃんは隣町の牧場へ行ってしまわれたのですね。
yossieさんのブログを読んでいて、クロちゃんの登場する回が特に楽しみでした。
Perfect Worldという、素敵な名前だったことを今日初めて知りました。クロちゃんをずっと応援しています。産駒が活躍しますように!
2013/11/04(月) 14:11 | URL | 涙色 #-[ 編集]
ありがとうございます。
楽しみにしていただいていて、光栄です。
クロちゃんの産駒、まだまだ活躍を期待しています。
1歳のコンデュイット牝馬は、ニンジン好きで個性的な馬でした。
育成牧場へ行く機会があれば、のぞいてきたいと思います。v-22
2013/11/07(木) 13:00 | URL | team yosshie #uvrEXygI[ 編集]
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